アフリカの中でも特に治安の悪化がたびたび取り沙汰される国のひとつ、それがコンゴ民主共和国(DRC)です。
- 武装勢力がうようよしている
- 東部は渡航禁止エリア
- 旅行中に誘拐された
など、ネット上でも物騒な情報が飛び交い、旅行を考えていた人の不安を一気に増幅させる要因になっています。
しかし実際のところ、すべての地域が危険というわけではありません。正確な情報とエリア別の事情、そして旅行者が直面するリスクを理解することで、回避可能な危険も多く存在します。
この記事では、コンゴの治安がなぜ悪化しているのか、その背景と構造、旅行者が実際に直面する危険、そして日本人が安全に旅するための知識と判断材料を丁寧に解説していきます。
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コンゴの治安が悪いと言われる5つの理由

ニュースやSNSなどでは「コンゴ=危ない国」というイメージが強く植え付けられていますが、その背景には単なる貧困や犯罪を超えた、複雑で深刻な「根本的要因」がいくつも存在します。
ここでは、その主要な5つの理由を整理しながら、コンゴの治安悪化の構造的な側面を理解していきましょう。
民族間対立が現在も尾を引き、各地で衝突が続いている
コンゴでは数百におよぶ民族が存在し、その間の歴史的な対立や不信感が現在も火種として残っています。植民地時代の分断統治の影響も大きく、特定の民族に権力が集中したことで不満が蓄積。
政権交代のたびに復讐的な争いが発生し、暴力の連鎖が止まらないという悪循環が続いています。
特に地方の村落では、政府の影響力が及ばない場所も多く、民族間の報復合戦が「日常の延長」として続いているのが実情です。
旅行者が巻き込まれるケースは少ないとはいえ、そうした背景を持つ土地に不用意に立ち入ること自体がリスクとなるため、現地の地理・文化的な構造を理解することが不可欠です。

豊富な鉱物資源をめぐる武装勢力同士の争奪戦が激化

コンゴ民主共和国は、世界有数のコバルト、金、銅、タンタル(携帯電話や電子機器に使われる鉱物)の埋蔵量を誇る「鉱物資源大国」です。しかしその豊かさが、逆に国の不安定さを加速させています。
この国の資源は、正規の企業や政府によって管理される一方で、反政府武装勢力や民兵組織、さらには隣国の武装グループまでもが違法に採掘・取引を行っているのが現状です。こうしたグループは、資源の利権を巡って互いに衝突を繰り返し、地域一帯を「戦場化」させてしまうこともしばしばです。
武装勢力の資金源の多くは、この鉱物資源から得られたものであり、国際社会の介入もなかなか成果を上げられていません。さらに、地元の住民が強制労働や搾取の対象となるケースも多く、人道的な問題としても深刻さを増しています。
旅行者がこうした採掘地域に足を踏み入れることはまずありませんが、周辺地域にまで緊張感が波及することがあるため、意図せず近づくことで巻き込まれるリスクはゼロではありません。特に、地元ツアーや個人の移動手配を行う際は、事前に現地情勢を十分確認することが重要です。
隣国からの武装勢力の流入により東部が無政府状態に近い
コンゴ民主共和国の東部地域、特に北キブ州・南キブ州・イツリ州は、現在も「国家の支配が及ばない準戦時状態」にあると言われています。その主な原因が、ルワンダ、ウガンダ、ブルンジなど周辺諸国からの武装勢力の流入です。
これらの武装グループは、民族的・宗教的背景に根ざした勢力だけでなく、利権を目的とした民兵や元軍人による混成集団も含まれており、活動は年々複雑化・過激化しています。
国境は森林地帯や山岳地帯が多く、政府軍の監視が及ばないエリアが非常に広大であるため、違法な越境や武器・資源の密輸が絶えない状況です。こうした武装勢力が展開している地域では、
- 村落の焼き討ち
- 民間人の殺害・誘拐
- 強制徴兵や性暴力
- NGOや国連スタッフへの攻撃
といった深刻な人権侵害も報告されており、現地住民が命からがら他地域へ避難を余儀なくされているのが現実です。
日本人を含む外国人旅行者が東部に足を踏み入れるのは極めて危険であり、外務省も「レベル3〜4:渡航中止勧告〜退避勧告」を継続中です。たとえ都市部からは離れていても、ルートの一部が危険地域を通過することがあるため、移動の際はプロの現地ガイドや大使館の助言を必ず仰ぐべきです。
政府・軍の腐敗が治安維持機能を麻痺させている

コンゴ民主共和国では、政府や軍の内部腐敗が非常に深刻な問題となっており、これが治安の悪化に拍車をかけています。そもそも国全体に法の支配が行き届いておらず、特に地方では「誰も信じられない」ことが前提の社会構造になっているのが現実です。
たとえば政府高官の汚職や資金横領は日常茶飯事であり、本来であれば治安維持に使われるべき予算が、私的な贅沢や政治的な駆け引きに使われてしまうケースが後を絶ちません。
さらに、治安部隊の兵士に対して十分な給料が支払われていないため、警官や軍人自らが金銭目当てで違法な検問や賄賂要求を行うこともあるのです。実際に旅行者の間でも、
- 正当な理由なくパスポート提示を求められ、高額な「罰金」を請求された
- 空港や検問所でカメラやスマホの没収・破損被害に遭った
- 本物と見分けがつかない偽警官に取り囲まれた
といった報告が多数あります。つまり、「身を守るべき存在」が脅威になってしまっているという皮肉な現実が存在するのです。このため、旅行者としては、
- 必要最小限の現金しか持ち歩かない
- パスポートのコピーを携帯し、原本はホテルに保管する
- 検問では冷静に、しかし毅然とした態度で対応する
といった具体的な対策が重要です。
また、トラブルに巻き込まれた場合は在コンゴ日本大使館や国連関係機関との連携が鍵になりますので、渡航前には必ず連絡先と対応フローをメモしておくと安心です。
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難民・避難民の流入で一部都市の治安が悪化している
コンゴ民主共和国の治安悪化の根底には、武装勢力や民族間対立だけでなく、国内外からの大量の避難民・難民の流入によって都市機能が限界を迎えているという問題もあります。
特に国内東部や中央アフリカ共和国との国境周辺では、戦闘や迫害を逃れた人々が次々と移動しており、国際的な援助が届きにくい地域では、難民キャンプそのものが治安の脅威になっている場合もあります。
これにより都市部では以下のような課題が深刻化しています。
- 人口過密化によりインフラ(医療・水・電気・交通)が崩壊
- 雇用の奪い合いによる失業率の上昇と社会不安の拡大
- 食糧や生活物資の不足による略奪や暴動のリスク
- 犯罪組織が難民を勧誘して組織化するケース
特にキンシャサやゴマといった都市では、避難民の増加により一部地域がスラム化しており、旅行者がこうした地域に立ち入ったことで、思わぬトラブルに遭遇する例も報告されています。たとえば、
- 観光客と見るや高額な「ガイド料」を請求される
- スマホやカメラを狙ったスリや強奪
- 小さな揉め事が大規模な集団トラブルへ発展
こうした事態を避けるためにも、旅行者は「都市だから安全」という思い込みを捨てることが肝心です。
地元の人に相談する・外国人向けのエリアに滞在する・過密エリアを避けるといった基本行動を徹底することで、安全性は大きく高まります。

コンゴで旅行者が実際に直面する4つの危険性を解説

これまでご紹介してきたように、コンゴの治安が不安定である背景には政治・社会・経済・文化が複雑に絡み合っています。
では、実際に旅行者が現地で直面しやすいリスクとは、どのようなものなのでしょうか?
この章では、旅行者目線で「現実に遭遇しやすい」4つの具体的な危険シナリオを解説します。特に都市部での移動や滞在に関わる場面を中心に取り上げていきます。
路上や交通機関でのスリ・ひったくり被害の多発
コンゴでは、人通りの多い場所=安全な場所とは限りません。
むしろ、バス乗り場や市場、空港前、公共交通の乗降エリアなどでスリやひったくりの被害が多発しています。
犯人は2〜3人組のチームで動くことが多く、典型的な手口としては、
- 1人がぶつかって注意を引き、その間に別の人物がバッグを開ける
- 後方からスマホを抜き取る
- バイクに乗った犯人が歩行者の手から荷物を奪って走り去る
といったものが挙げられます。
特に注意すべきは、ポシェットやウエストポーチの「ジッパー部分」を常に狙われているという意識を持つことです。
さらに、警察に被害を訴えてもほとんど対応されず、追跡や補償が期待できないため、「盗まれたら終わり」という前提で行動することが求められます。

地方や郊外での誘拐・武装襲撃のリスクが高い
都市部から離れた農村地帯や山間部では、反政府勢力や犯罪集団が活動しているエリアが複数存在しています。
特に外国人は「身代金の対象」として認識されやすいため、誘拐・拘束・脅迫といった重大事件のリスクが現実的です。
国際NGOスタッフや国連関係者が襲撃されたケースもあり、観光目的での個人旅行者が巻き込まれた例も報告されています。
- 目的地までの道中で、山道を一人で移動していた
- 現地ツアーのガイドが勝手に治安の悪いルートを選んだ
- SNSで現在地を発信し、ターゲットにされた
こうした危険を回避するためには、都市部以外の地域には原則立ち入らないこと、そして移動の際には政府・大使館が推奨する交通手段とガイドを利用することが不可欠です。
公共施設での詐欺や不当な取り締まりが横行している

コンゴでは、空港や駅、検問所、行政施設といった「本来、安全であるべき公共空間」においてさえも、旅行者が不当な扱いを受けるケースが頻発しています。
これは、前述のように政府機関や治安部隊の腐敗が深く関係しており、公務員や警察官、軍人が自身の利益目的で「取り締まり」を装った詐欺まがいの行動を取るからです。
たとえば次のような事例が報告されています。
- 空港の手荷物検査で「中に違法物がある」と言われ、荷物を開けさせられた後に金品を要求される
- パスポートの有効期限やビザの記載に「問題がある」と指摘され、数十ドルの即時支払いを求められる
- 公共の建物内での撮影を理由に、その場で罰金を請求される
さらにタチが悪いのは、これらが「公式のユニフォームを着た人間」によって行われるため、旅行者側が正規か偽者か判断できないという点です。
当然ながら抗議をしても、「応じなければ通さない・拘束する」といった脅しが加えられることもあるため、冷静さと対応スキルが問われます。これらの被害に遭わないためには、
- 現金は最小限にし、必要な場面以外では見せない
- パスポートはコピーを携帯し、原本は肌身離さず保管する
- 強く拒否するよりも、「大使館に連絡する」と伝えることで抑止効果がある
という行動が推奨されます。
また、空港や検問所では周囲に人が多い場所で対応するように心がけると、被害に遭う確率を下げることができます。
医療体制が脆弱で感染症や怪我への対応が困難
コンゴ民主共和国では、医療機関そのものの数が圧倒的に不足しており、設備・薬品・人材すべてが都市部でも不十分な状態です。
さらに地方部では、診療所すら存在せず、病気やケガをしても「治療を受けられないまま自力で回復を待つ」しかないという現実があります。
特に注意すべき点は以下の3つです。
- 感染症のリスクが高い:マラリア、デング熱、黄熱病、エボラ出血熱などが流行する地域もあります。ワクチン接種が義務化されている場合もあるため、渡航前の予防接種と薬の携帯は必須です。
- 交通事故や転倒などの日常的な怪我も深刻化する恐れ:道の舗装が悪く、医療対応が遅れることで、軽い傷が感染症に発展する例も多いです。
- 衛生状態の悪さ:医療施設での処置すら衛生面に不安があることがあり、注射針や器具の使い回しが問題になることもあります。
また、高額な費用がその場で請求されることが多く、クレジットカードが使えない施設も珍しくありません。
国際的に信頼できる医療機関はごくわずかであり、多くの場合は周辺国への緊急搬送が必要となります。
したがって、旅行前には以下の備えが不可欠です。
- 海外旅行保険(医療・緊急搬送付き)に必ず加入すること
- 抗生物質や整腸剤、消毒液などの応急処置キットを持参する
- 現地で信頼できる医療機関の連絡先をあらかじめ調べておく
コンゴでは「もしもの時の医療が無い」という前提で行動するのが安全への第一歩です。
外務省データによる最新の治安情報を分析
コンゴ民主共和国を旅行先として検討する際に、必ずチェックしておくべきなのが、日本の外務省が発表する海外安全情報です。
2025年現在、この情報は非常に重要な渡航判断の指標となっており、旅行者は必ず内容を把握し、最新情報を逐一確認する必要があります。
東部・北部の州には渡航中止勧告レベル3~4が継続中

外務省はコンゴの地域別に危険度を設定しており、特に北キブ州・南キブ州・イツリ州・タンガニーカ州などの東部および北部地域に対しては、「レベル3(渡航中止勧告)」や「レベル4(退避勧告)」を継続して発表しています。
この措置は以下のような理由によるものです。
- 武装勢力の活動が依然として活発で、民間人への攻撃が日常的に発生している
- 政府軍との衝突に巻き込まれる可能性が高い
- 国連やNGO職員ですら誘拐・殺害される事例がある
このようなエリアに観光や冒険目的で立ち入ることは、命の危険を冒す行為に他なりません。旅行保険も適用されない場合があるため、完全に避けるべき地域です。
日本人が巻き込まれた事件は過去にも多数報告されている
外務省の過去の通報事例を見ても、日本人旅行者がスリ、強盗、検問トラブルに巻き込まれるケースは決して珍しくありません。
中には、ツアー会社の案内で地方に入った際に武装集団と遭遇し、拘束された例もあります。
また、「日本人=お金を持っている」という認識が強いため、現地では目立ちやすく、身代金目的の誘拐対象とされるリスクも高くなるとされています。
外務省の発表するリスクレベルを軽視せず、都市部であっても自己防衛意識を持ち、日中の移動や現地スタッフとの連携を徹底することが求められます。
情勢変動が激しいため、出発直前にも再確認が必須
コンゴでは突発的な暴動、軍のクーデター未遂、外国との国境紛争など、状況が突然悪化することも珍しくありません。そのため、渡航の1ヶ月前、1週間前、前日、当日と段階的に最新の治安状況をチェックすることが非常に重要です。確認すべき情報源としては、
- 海外安全ホームページ
- 在コンゴ日本大使館からの最新情報(SNSやメルマガ)
- 現地報道や英語ニュース(BBC, Al Jazeeraなど)
- たびレジ
さらに、海外の危険情報を確認できる「リスクメイト」に事前に確認しておけば、現地特有の犯罪がわかるはずです。
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コンゴの治安に関する「よくある質問」
コンゴへの渡航を考える際、多くの人が感じるであろう疑問をピックアップし、わかりやすく、そして現実的に答えていきます。
治安情報はニュースやSNSで断片的に流れがちですが、ここでは旅行者目線で「本当に知りたいこと」にフォーカスします。
Q:なぜコンゴは今でも治安が悪いのですか?
答えは単純ではありませんが、要因をまとめると以下のようになります。
- 武装勢力が多く存在し、政府の支配が及ばない地域が広大
- 豊富な鉱物資源をめぐる利権争いが激化し、民間人が巻き込まれている
- 歴史的な民族対立が根強く、今も局地的な紛争が続いている
- 警察・軍・司法の腐敗と機能不全が深刻で、法の支配が成立していない
これらが複合的に絡み合っており、「一度崩壊した秩序が、立て直せずに今も続いている」というのが実情です。
Q:コンゴが2つある理由は何ですか?
地図上で「コンゴ」という国名を持つ国が2つ存在するのは、多くの旅行者にとって混乱の元です。
それぞれの正式名称と特徴は以下の通りです。
通称「コンゴ(キンシャサ)」
アフリカ大陸中央部の大国で、今回の記事で取り上げている国です。広大な国土と資源、長年の内戦と政情不安が特徴。
通称「コンゴ(ブラザヴィル)」
DRCの西隣に位置する比較的小さな国。政治的にはより安定しており、観光客にとっての治安リスクは比較的低い。
この2国はコンゴ川を挟んで向かい合っており、首都同士が世界で最も近い位置関係にあるのも面白いポイントです。
Q:コンゴでインフルエンザに似た症状の原因不明の病気は?

旅行者が「インフルエンザのような症状」と感じる病気の多くは、実際には以下の感染症が原因であることが多いです。
- マラリア(高熱、悪寒、頭痛)
- 黄熱病(ワクチン未接種だと発症の可能性あり)
- 腸チフス(水や食事に含まれる菌が原因)
- デング熱(蚊に刺されて発症するウイルス性感染症)
コンゴではこれらの疾患が広く存在しており、症状が似ているため、誤診や治療の遅れが命取りになることも。
また、医療体制の脆弱さから、正確な診断ができないケースも多々あります。
渡航前には必ず黄熱病ワクチン接種証明(イエローカード)を取得し、滞在中は虫よけや衛生対策を徹底してください。
まとめ|コンゴの治安は確かに悪いが、渡航できないレベルではない
コンゴ民主共和国の治安は、たしかにアフリカの中でも最も不安定な部類に入ります。
武装勢力の支配地域、政府と軍の腐敗、資源を巡る争い、そして日常化した軽犯罪。これらが複雑に絡み合い、外国人旅行者にとっても高いリスクが存在します。
ですが、その一方で、「全土が危険」というわけではありません。
キンシャサなどの都市部には、比較的落ち着いたエリアもあり、十分な下調べと安全対策、現地パートナーとの連携があれば、限られた範囲での滞在は不可能ではありません。
大切なのは、「行かない」ことではなく、「行くなら覚悟を持ち、情報武装する」ことです。
渡航を検討するのであれば、以下の3つは最低限の準備と考えてください:
- 外務省の海外安全情報をこまめにチェックすること
- 信頼できる現地ガイドや日本大使館と常につながっておくこと
- 医療・感染症対策、盗難・誘拐対策を事前に講じること
コンゴは、リスクと隣り合わせである一方、豊かな自然、文化、資源を持つポテンシャルの高い国でもあります。
慎重に、一歩ずつ正しい情報をもとに旅をすれば、「危ないだけの国」ではない側面にも出会えるはずです。
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