かつては南米の中でも比較的安全とされ、自然観光や世界遺産を目的に訪れる旅行者の多かったエクアドル。赤道直下の温暖な気候、ガラパゴス諸島の豊かな生態系、そして首都キトのコロニアルな街並み…。
その平和なイメージは、ここ数年で大きく崩れつつあります。銃撃、誘拐、爆発事件、そしてギャング抗争…。
「エクアドルが危険だなんて思わなかった」と語る旅行者の声が相次いでいる今、いったいこの国に何が起きているのか?
この記事では、エクアドルの治安悪化の原因、実際に起きた事件、旅行者が取るべき対策までを、最新情報に基づいて詳しく解説します。
\ 海外の危険情報共有マップサービス /
なぜエクアドルでは治安が悪化しているのか?5つの要因を解説

エクアドルの治安悪化は、単なる一時的な現象ではありません。その背景には、地理的な位置、政治的混乱、経済格差、そして国際的な麻薬戦争の影響が複雑に絡み合っています。
ここでは特に重要な5つの要因を挙げて、エクアドルの現在地を読み解いていきましょう。
麻薬ルートの中継地としてギャングの抗争が激化している
エクアドルは南米大陸の太平洋側に位置し、ペルーとコロンビアという2つの“麻薬大国”と国境を接する地理的条件を持っています。これにより、エクアドルは南米のコカインが欧州やアメリカに密輸される際の中継拠点として利用されるようになりました。
以前は麻薬の通過国として比較的平穏だったエクアドルですが、ここ数年で状況は大きく変わりました。コロンビアやメキシコのカルテルがエクアドル国内に拠点を築き、地元ギャングと結託・抗争を繰り返すようになったのです。
特にグアヤキルやエスメラルダスといった港湾都市では、コンテナ船を使った麻薬の輸出ルートを巡ってギャング同士の争いが激化。その結果、銃撃事件や爆弾テロ、通行人を巻き込む無差別攻撃が急増しています。
経済危機と失業率の上昇が犯罪増加を助長している

治安悪化のもうひとつの背景には、経済の悪化と雇用不安があります。
エクアドルは2020年のパンデミック以降、観光業の落ち込み、石油価格の低迷、債務危機などが重なり、失業率が上昇し続けている状況です。
こうした状況下で、生活に困窮した若者たちがギャングにリクルートされる例も多く、「報酬をもらって殺し屋になる」「麻薬運びの運転手になる」など、犯罪に加担せざるを得ない構造が広がっています。
また、都市部では強盗やスリの件数も急増しており、観光客がターゲットになるケースも非常に目立つようになってきました。
警察や政府関係者の腐敗と統制の緩さ

治安維持の最前線に立つべき警察や地方自治体が腐敗していることも、エクアドルの治安問題を悪化させている要因のひとつです。
現地の報道によると、ギャングと癒着している警察官や刑務所関係者が多く存在し、麻薬の輸送や脱獄に協力するケースも確認されています。さらに、正義を貫こうとした警察官やジャーナリストがギャングに報復される事件も発生しており、法の執行自体が抑え込まれている状態です。
つまり、国としての「統制力」が崩れつつあるという危機的な状況にあるのが、現在のエクアドルなのです。
エクアドル大統領候補暗殺事件が治安悪化の象徴に
2023年8月、次期大統領選を目前に控えた政治家、フェルナンド・ビジャビセンシオ候補が選挙集会後に銃撃され死亡するという衝撃的な事件が発生しました。
この事件は国内外に大きな波紋を呼び、エクアドルの政治と治安がいかにギャングの影響下にあるかを改めて世界に知らしめる出来事となりました。
政府は事件直後に非常事態を宣言し、軍を動員してのギャング掃討作戦を開始しましたが、それによってかえって反撃や報復行為が激化する一面も見られ、治安は安定するどころか不安定さを増す結果となっています。
刑務所暴動や武装脱走事件が市街地にも波及している
もうひとつ深刻なのが、エクアドル国内の刑務所の統制崩壊です。
多くの刑務所ではギャングが事実上の支配権を握っており、内部での抗争や暴動が頻発しています。
ときには囚人同士の抗争が数十人単位の死者を出すこともあり、さらにその混乱の中で武装した囚人が脱走し、一般市民のいる街中に逃げ込むケースもあります。
このような事態が繰り返されることで、市民の間には「どこにいても安心できない」という恐怖感が広がり、夜間の外出や公共交通の利用を控える人も増えているのです。

エクアドルの主要都市で特に危険なエリア

エクアドルの都市部では、一見すると普通の市街地に見えても、通り一本隔てた先にギャングが支配する“無法地帯”が広がっていることも珍しくありません。
地元住民ですら「昼間でも近づかない」というエリアが存在し、観光客がうっかり足を踏み入れてしまえば命の危険すらある状況です。
グアヤキルでは銃撃・爆発事件が頻発している
エクアドル最大の港湾都市であるグアヤキル(Guayaquil)は、経済の中心であると同時に、現在国内でもっとも危険な都市の一つとされています。
麻薬の積み出し拠点として注目されていることから、複数の麻薬カルテルやギャングが拠点を構え、支配地域を巡って激しく抗争しているのです。
2024年から2025年にかけても以下のような事件が相次ぎました。
- 銃を乱射したバイク集団による市場襲撃
- 店舗や警察署への爆破テロ
- 複数の殺害遺体が路上に放置される
特に危険とされているのは、モンテ・シナイ(Monte Sinaí)地区やクリスト・デル・コンスエロ(Cristo del Consuelo)地区などで、これらの地域は地元の人でも近づかないレベルです。
夜間の外出はもちろん、昼間でもタクシーや配車アプリを使わずに歩くのは非常に危険であり、観光のついでに立ち寄る、という軽い気持ちは命取りになります。
キトも夜間の移動には警戒が必要
エクアドルの首都キト(Quito)は、世界遺産にも登録された美しい旧市街が有名で、多くの観光客が訪れる都市です。
しかしその一方で、治安の悪化も年々深刻化しており、特に夜間の移動や人気のないエリアでは注意が必要です。
キトでは以下のようなエリアが特に警戒対象とされています。
- ラ・マリスカル地区(La Mariscal):飲食店やバーが集まる観光客向けのエリアだが、深夜の強盗事件が多発
- ヒト・デル・スール(Quitumbe):バスターミナル周辺では、スリや置き引き、路上での脅しが報告されている
- エル・コンデ(El Conde)や旧市街地周辺:観光名所が多いが、人通りが少ない通りではスマホ強奪やひったくりのリスクが高い
昼間であっても油断は禁物で、カメラやスマホを首からぶら下げて歩くのはターゲットになりやすいため、装備や持ち物の扱いにも工夫が必要です。
エスメラルダスやマナビではギャングの影響力が強い
太平洋沿岸に位置するエスメラルダス(Esmeraldas)州とマナビ(Manabí)州も、2023年以降に急速に治安が悪化した地域です。
これらの地域は海路による麻薬輸送の通過点として機能しており、コロンビア国境に近いエスメラルダスでは、麻薬カルテルの直接的な支配が強まっているとされています。マナビ州ではギャングが事実上の“治安維持”をしている地域も存在し、警察が立ち入らないゾーンもあるという報告もあります。
最近では以下のような事件が注目されました。
- 民家への銃撃で家族全員が殺害される
- 地元ジャーナリストが拉致・殺害される
- 街中での爆発事件により複数人が負傷
特にエスメラルダス市内の一部と、マナビ州の港湾都市マンタ(Manta)やポルトビエホ(Portoviejo)周辺は、外務省や米国国務省も「不要不急の渡航は控えるように」と注意喚起を出しているほどです。
日本人旅行者にとってのリスクは?エクアドルで実際に起きた事件から学ぶ
「エクアドルは他の南米諸国に比べて安全」と言われていた時代はすでに終わり、今では日本人旅行者にも現実的なリスクが迫っている国となりました。
ここでは、過去に起きた事件や被害報告をもとに、日本人ならではの“狙われやすさ”と注意すべき行動パターンを紹介します。
2023年に発生した新婚旅行中の日本人殺害事件
エクアドルの治安の悪化を象徴する事件の一つが、2023年に発生した日本人夫婦が巻き込まれた強盗殺人事件です。
この事件は、新婚旅行でエクアドルを訪れていたカップルが、地方都市への移動中に武装グループに襲撃され、男性が命を落としたというもの。
場所は比較的治安が良いとされていた都市近郊で、夫婦はタクシーに乗って移動していたところ、停車中にバイクに乗った2人組に囲まれ、金品を要求された後、争った拍子に銃撃されたと報道されています。
この事件の背景には、以下のような要素が関係していたと考えられています。
- 外国人=裕福で抵抗しないという先入観
- タクシーの利用が非正規車両であった可能性
- 移動中にスマートフォンで地図を確認していたことが“観光客”として目立った
現地ではこの事件を機に、日本大使館や外務省がより強い安全情報の発信を始め、日本人旅行者への警告が強化されました。
狙われやすい旅行者の行動パターンとは
日本人旅行者は、現地の犯罪者にとって「非常に狙いやすいターゲット」として見られがちです。
理由はさまざまですが、以下のような行動や特徴が“カモ”にされるきっかけになるとされています。
- スマホを片手に歩いている(周囲への警戒が薄いと判断される)
- ブランドのバッグや時計、アクセサリーを身につけている
- 英語か日本語で話しており、現地言語ができない(通報できない、騙しやすい)
- 現地の交通事情に不慣れで、移動手段を把握していない
- 写真や動画の撮影に集中しすぎている(スキだらけ)
特にエクアドルのようにスリやひったくりが頻発する国では、「いかに観光客っぽく見えないか」が安全確保のカギになります。

日本人の「安全意識の低さ」が危険を招いていることもある

海外旅行慣れしている人ほど、「このくらいなら大丈夫」と油断してしまいがちです。
しかし、エクアドルのように突然の銃撃や武装強盗が当たり前の国では、日常の感覚を持ち込むこと自体が危険行為となります。
たとえば、「治安が悪い」と言われているのにホステルの近くを夜に歩いてしまう、タクシーを使わずにローカルバスに乗ってしまう、親しげに話しかけてきた現地人についていってしまう…。
いずれも、「日本だったら問題ない行動」が命取りになりかねません。
また、現地のニュースをチェックしないまま旅を続ける人も多く、「今まさに暴動が起きている地区にうっかり近づいてしまった」というケースも報告されています。
日本人旅行者に求められるのは、“観光客である前に、安全を最優先する個人である”という認識を持つことです。

\ 海外の危険情報共有マップサービス /
まとめ|エクアドルの治安を正しく知って、安全な行動を選ぼう
かつては「南米の中でも比較的安全」とされていたエクアドルですが、2020年代以降の急激な治安悪化によって、その印象は大きく塗り替えられました。
麻薬ルートの中継地としての役割が強まり、ギャング同士の抗争が日常的に起きるようになった現在、都市部でも油断は一切できない状況です。
特にグアヤキルやエスメラルダスでは銃撃や爆発事件が頻発し、首都キトですら、夜間に強盗やスリが多発する危険な都市へと変貌しました。さらに、2023年には大統領候補が暗殺されるなど、国家の統制力そのものに疑問が投げかけられる事件も相次いでいます。
もちろん、エクアドルは決して「すべてが危険な国」ではありません。しかし、「事前に知識がなければ、命の危険にさらされる国」であることは間違いありません。
たとえ観光で訪れる短い期間であっても、治安の知識は旅の命綱です。安全な旅行とは、リスクを避けることに徹することではなく、リスクを正しく知ったうえで、冷静に対処できる自分を作っておくことです。
\ 海外の危険情報共有マップサービス /